
こちらのコラムは「高齢者が冬に気をつけたい家庭内事故とは?①ヒートショック」の続きです。
前回は、高齢者が冬に気をつけたい家庭内事故のひとつとしてヒートショックについて取り上げました。
本コラムでは第二編として、「餅による窒息事故」と「冬に起きやすい転倒事故」について、リスクと具体的な対策をわかりやすく解説いたします。ご自身の安全のために、そして大切なご家族を守るために、ぜひ参考にしてみてください。

東京消防庁の統計(令和3年)によると、「ものがつまる等」による食べ物の事故原因は以下の通りです。
第1位 野菜・果物:98人
第2位 おかゆ類:97人
第3位 肉:91人
第4位 パン:76人
このように、日常的に食べる食品でも窒息事故は多く発生しており、十分な注意が必要ですが、冬に特に警戒すべきなのが餅による窒息事故です。
同じく東京消防庁の統計(令和3年)では、餅をのどに詰まらせて救急搬送された人は57人にのぼり、そのうち55人が65歳以上の高齢者でした。さらに、事故は餅を食べる機会が増える12月から1月、特に正月三が日に集中していることから、餅は高齢者を中心に窒息のリスクが高い食品であることが分かります。
餅が危険とされる主な理由は「硬さ」「粘着性」「まとまりやすさ」の三点です。
| ① 硬さ 体温に近い40℃以下に下がると硬くなる性質があります。 調理直後は柔らかく見えても、口に入れて体温より低い温度になると次第に硬さを増していきます。 |
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| ② 粘着性 温度が下がるほど粘着性が高まる性質があります。 |
| ③まとまりやすさ 強い粘着性によって、噛んでも細かく砕けず再びくっつき、口の中でひとつの塊に戻りやすくなります。 |
これらの性質が重なることで、餅は喉や気道に貼りついたり詰まったりしやすく、窒息につながりやすいため、危険とされています。
さらに、餅のつまりやすさに加えて、高齢者は身体的な変化が重なることで、そもそも、食べ物による窒息事故を起こしやすい傾向があります。
以下に主な要因と、それに基づき特に注意が必要な方をまとめました。
| ①噛む力の低下 硬いものや大きな塊を噛み切りにくい場合があります。 【特に注意が必要な方】 入れ歯を使用している方、歯の本数が少ない方、あごの筋力が弱い方 |
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| ②飲み込む力の低下 食べ物を喉の奥まで送る力が弱まり、のどに残りやすくなります。 【特に注意が必要な方】 普段からよくむせることが多い方 |
| ③唾液の減少 唾液が少ない状態では、食べ物を飲み込みにくくなります。 【特に注意が必要な方】 口の乾燥が続いている方、唾液が少なく、食べ物を飲み込みにくいと感じる方、 普段からよくむせる方 |
| ④咳で押し返す力の低下 食べ物が詰まった際に咳で押し出しにくくなり、窒息につながる危険性が高まります。 【特に注意が必要な方】 呼吸器疾患がある方、咳の力が弱い方、フレイル(心身が虚弱な状態)の方 |
| ⑤猫背 背骨を支える筋肉が弱まり猫背(不良姿勢)になると、座って食事をする際に飲み込む力が入りにくくなります。 【特に注意が必要な方】 姿勢が安定しにくい方、背筋が弱い方 |
| ⑥薬の副作用 服用している薬によっては口の渇きや嚥下反射の低下を引き起こす場合があります。 【特に注意が必要な方】 副作用のある薬を服用している方 |
| ⑦誤嚥のしやすさ 特に加齢や病気により、食べ物や飲み物が誤って気道に入りやすくなります。 【特に注意が必要な方】 普段からよくむせる方、脳卒中後やパーキンソン病などの神経疾患がある方、 過去に誤嚥性肺炎を起こしたことがある方 |
※これらに当てはまらない方でも、年齢や体調によって窒息の危険は誰にでも起こり得ますので、注意が必要です。
また、上記の要因をみると、本人が餅を食べる際に「詰まらないように」と意識して気をつけていても、身体的な変化によって、どうしても事故が起こってしまう可能性があることがわかります。
餅のリスクと食べる方の特徴や体調を考慮し、「餅を食べない」あるいは「お正月にはお餅以外の代替の食べ物を楽しむ」という選択も、安全のためには有効です。
・餅は小さく切り、食べやすい大きさにしてから食べる。
・食べる前にお茶や汁物で喉を潤す。
・一口の量は無理のない量にする。
・ゆっくりよく噛んでから飲み込む。
・食事中は集中できる環境を整える(テレビを消す、会話を控える)
※笑いながら食べると、飲み込む動作と呼吸のタイミングがずれてしまい、食べ物が気道に入りやすくなり危険です。
・食事の様子を見守る
高齢者が餅をよく噛んでいるか、ゆっくり食べているか、食後に異変がないかを注意深く観察しましょう。
・応急手当の方法を理解しておく
食べ物などで窒息し、完全に息ができない状態が続くと、短時間でも命に関わる危険があります。窒息事故は一刻を争うため、応急手当の方法を理解し、すぐに行動できるようにしておくことが大切です。
以下のような状態が見られたら、窒息の疑いがあります。
✅声が出ない、話せない
完全に呼吸ができない危険な状態です。周囲から見ると「急に黙った」ように見えることがあります。
✅ヒューヒュー・ゼーゼーという呼吸音やせき
食べ物が気道の一部に詰まると、呼吸時に苦しそうな音が出ることや、強く咳き込むことがあります。まだ少し空気の通り道が残っている状態ですが、放置すると完全に塞がってしまう危険があります。
✅チョークサイン(のどを押さえる仕草)や胸・喉を叩く動作

▲チョークサイン 本人が呼吸困難を訴える典型的な仕草です。
✅顔色が紫や黒っぽくなる(チアノーゼ)
酸素不足による危険な兆候で、緊急性が非常に高い状態です。
すぐに119番へ通報し、通報と同時に、のどに詰まったものを取り除くための対応を行いましょう。
・せきができる場合は、できるだけせきを続けさせる
強いせきは異物を排出する力になります。
・異物除去の応急手当(2つの方法)
1. 背部叩打法


肩甲骨の間を手のひらで強く連続してたたきます。寝ている人の場合は横向きにし、頭を少し後ろにそらせて肩甲骨の間を強く連続してたたきます。
2. 腹部突き上げ法(ハイムリック法)

腹部の上の部分を手前上方に強く突き上げます。
※乳児、妊婦、肥満の強い方には行ってはいけません。
東京消防庁では、窒息時の応急手当を分かりやすく動画で解説しています。背部叩打法や腹部突き上げ法の具体的な手順を確認できるので、事前に見ておくと安心です。

高齢者の転倒事故は、ちょっとした転倒でも骨折や頭を強く打って重傷になることがあり、深刻な事故につながるケースも少なくありません。
▲高齢者の転倒事故については、原因と対策をまとめた別コラムがあります。ここでは、冬場に転倒事故が増える要因と気をつけたいポイントをまとめます。
高齢者の転倒事故は年間を通じて多く発生していますが、冬は特に注意が必要です。
冬に転倒事故が増える要因としては、厚着による動きの制限や寒さによる筋肉・関節のこわばり、運動量の減少による筋力やバランス機能の低下などが挙げられます。こうした要因が重なることで、わずかな段差や障害物でも転倒しやすくなる傾向があります。

「冬の転倒」と聞くと積雪や路面凍結を思い浮かべるかもしれませんが、実際には転倒事故の多くが自宅の中で発生しています。
例えば、冬は暖房器具が増え、そのコードにつまずいてしまうなど、冬のご自宅ならではのリスクが潜んでいる可能性があります。安全のために、改めて室内環境を見直してみましょう。
| ✅こたつ布団 大きすぎる布団は垂れ下がり、足を引っかけやすいので、テーブルに合ったサイズを選びましょう。 四隅は折り込んでおくと転倒防止になります。 |
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| ✅新聞やチラシ 床に置かない、広げたままにしないようにしましょう。 |
| ✅暖房器具のコード ストーブや電気カーペットなどのコードは、動線上に置かないようにしましょう。 |
| ✅スリッパ 転びやすいタイプは避け、滑り止め付きの靴下やかかとまで入るルームシューズを選びましょう。 |
| ✅カーペットの端 めくれていると足を引っかける危険があります。裏に滑り止めをつけて整えましょう。 |
| ✅暗い足元 廊下や階段には足元を照らす照明を設置すると安心です。また、通路に物を置かないようにしましょう。 |
| ✅段差 畳とフローリングの境目など、家の中の段差には注意が必要です。 特に1〜3cm程度の小さな段差が最もつまずきやすいと言われています。どこにあるのかを把握しておきましょう。 |

年末年始の大掃除では、高所や天井など、普段は手が届かない場所を掃除したりと、いつもとは違う動きをする方も多く、転倒や転落といった思わぬ事故が起こることがあります。東京消防庁の統計によると、令和6年には掃除中の事故で928人が救急搬送されており、その多くが12月に集中し、搬送された人の大半は60歳以上でした。
| ✅無理をしない 年齢や体力に応じて作業を調整しましょう。 一人で行わず、休憩を取りながら周囲の人に補助や代わりを頼むことも大切です。 |
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| ✅余裕をもつ 急がず、時間に余裕をもって作業しましょう。 |
| ✅足場の安全確認 濡れている場所や洗剤が残っている床は事前に拭き取り、転倒を防ぎましょう。 |
| ✅高所作業の注意 脚立やはしごの使用は極力控え、可能であれば周りの人に作業を任せましょう。 使う場合は広いステップや上枠つきの安定したものを選び、足場はしっかりした場所に設置してください。 特に降りる際はバランスを崩さないよう注意しましょう。 |

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冬は高齢者にとって、家庭内での事故リスクが高まる季節です。特に、浴室でのヒートショック、餅による窒息、そして転倒事故は冬に起こりやすく、命に関わる危険性があります。
■予防・対策のポイント
・急激な温度差を減らす工夫(血圧の急変を防ぐ工夫)でヒートショックを予防
・餅の食べ方と周囲の方の見守りで窒息事故を防止
・室内環境の見直しと大掃除時の注意で転倒リスクを軽減
年末年始はご家族やご親戚で集まる機会が増える時期です。このタイミングで、ご家族で相談しながら、ご自宅の環境や習慣を見直してみるのも良いでしょう。
本コラムで紹介した対策を参考に、できることから取り入れて、安心して冬を過ごせる環境を整えていきましょう。